介護福祉士、講演者、モデルとして。
色々なところで色々な職業を持っていますが、そんな働き方が今の時代に必要なのかなと思っています。
上条さんのご職業を教えてください。
介護福祉士をしています。20歳の時に介護福祉士になったので、もう7年になります。介護施設で週に4日くらい働いています。
具体的にはどのようなお仕事内容でしょうか?
お食事や掃除などの生活援助や入浴の介助、排泄の対応などの身体介助をしています。その人がどんな生活をしたいのかを聞き、それを実現することで、ご本人のやりたい事をしていただく、という感じですね。
ご家族よりもある意味近い存在ですね。
そうですね。今現在のその人のことはよく知っているのかなと思います。
たくさんの職業があると思いますが、なかでも介護福祉士を選んだきっかけはありますか?
14歳の職業体験学習でたまたま介護施設に行ったことがきっかけです。それまではナイチンゲールやマザーテレサに憧れを持っていたので、看護師になりたいと思っていたんですけど、考えが変わりました。
おじいちゃんやおばあちゃんは、たとえ私の成績が悪くても、スポーツが苦手でも、家のお手伝いをやらない子だったとしても、私がただそこに存在していることが嬉しいって、みんなが受け入れてくれて、優しい言葉をかけてくれて。それがすごく嬉しかったんです。この人たちの一番近い存在ってどうしたらなれるんだろうと考えて、介護職が一番それに近いんじゃないかって思ったんですよね。
介護福祉士を目指していた時と、実際に介護福祉士として働き始めてからのギャップや違いはありましたか?
介護福祉士だからこそ入り込めない世界があることにギャップを感じました。例えば、在宅介護、訪問介護ってお買い物もするしお掃除もするんです。だからよく家政婦さんに間違えられることもあるんですけど、やっちゃいけないこともたくさんあるんです。例えばそのおばあちゃんが大切にしているペットが、ご飯が食べられない状況だったとしても餌をあげちゃいけないんですよ。何故なら、それはその人の自立支援ではない、その人のケアではないから。
また、おばあちゃんのお家を掃除しているときに朝飲むはずの薬が落ちていることがあります。その時に「朝飲んでないから飲んでもらおう」では解決はされないんです。そのおばあちゃんの身体状況と薬の知識を把握した上で、様子観察をしたり、場合によっては医師と連絡をとります。さらに、「もしかしたら、薬を飲むという行為が出来なくなってきているのかも」と推測出来なければなりません。
掃除という行為を通して、その方の生活が当たり前に送れるよう、アセスメントをしているのが介護福祉士です。ただ、介護保険でサービスを提供しているので、点数内でしか関われないという現実に悩むこともありました。
やってあげたいけどできない、というもどかしさもありますよね。
そうですね。休みの日に一人暮らしのおばあちゃんの家に遊びに行きたいな、一緒にご飯でも食べたいなって思っても、その方に介護を提供する介護福祉士である限り、やってはいけないんですよね。そういうところも変えられたらなと思っていました。
介護福祉士としての喜びを教えていただけますか?
介護を受ける生活になってしまって、自分が人様に迷惑をかけながら生きるっていうことが受け入れられない人ってすごく多いんです。それが悲しくて、死にたい、死にたい、ってずっと言っていたおばあちゃんが「私ね、ずっと死にたいって思っていたんだけど、でも百里奈ちゃんに会えて、もう1回生きたいって思えたんだよ、ありがとう」って言ってくれて。すごく嬉しかったですね。その「ありがとう」って言ってくれた3日後に亡くなってしまったんですけど。。。
自分がその死に際に感謝を伝えたいと思う人ってすごく限られてくると思うんです。私がその1人であるってことがすごくうれしくて。それはやっぱり介護福祉士という仕事のおかげだなと。
介護福祉士として働いていて辛いことはありますか?
楽しいですよ!
誰かが体調を崩したりして悲しいときもあるけれど、基本的にいつも笑っています。新人の頃は下手だった移乗介助も今では慣れて、体力もあまり使わずにいられるようになりました。
今現在、どんな思いで介護福祉士として活動していて、また今後こうしていきたい!など、目標はありますか?
“人生を幸せに生き切っていただく”っていうのがゴールだと思っています。
介護が必要な一人暮らしのおばあちゃんがいたとしたら、「あそこで一人暮らしの介護が必要なおばあちゃんが住んでいる」って知っている人が一人でも多くいることがすごく大事だなって。
だから介護のプロをたくさん増やしたいっていう思いももちろんあるんですけど、それ以上に介護とか福祉に興味のない人をいかに巻き込めるかが重要だと思っていて、今はそれにつながるような活動をしているつもりです。
最近でいうと、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(注1)っていうドラマの介護監修をしたり、学生向けの講演もしています。
東京大学で講演をしたんですけど、いろんな学部の生徒がいっぱい来てくれて、介護の話をさせてもらったり、介護の専門学校の学生さんに向けて話をしたり、行政が主催している介護イベント、福祉イベントのゲストとしてトークショーに出たりとか。
一般の人も来るし、家族介護している人も来るし、福祉士を目指している学生さんもいましたね。
それでは、続いて上条さんご自身のことについて、お話を聞かせてください。
上条さんは、小さい頃どんなお子さんでしたか?
よくリカちゃん人形で遊んでいました。おやつは山で桑の実を摘んで食べていました。
大自然の中で育ったんですね。
はい、近くに公園とかがなかったので、大人が山にアスレチックみたいなものを作ってくれて、そこでよく遊んでいました。
通信簿とかで書かれていたこととか成績は覚えていますか?
成績は平均でした。勉強はあまり好きじゃなかった。。。
高校では、普通の教科と介護福祉の教科が選択できたんです。英語とか数学はいっつも赤点とかだったんですけど、介護福祉だけ常に95点以上、100点以下みたいな、で、学年もずっと1位で。
でも差がすごいから、本当に介護福祉しかできないというか。笑
興味のあることには一直線ですね
そうですね。やっぱり好きなことしか頑張れないんだと思います。
休日はどんなことをされていますか?
最近『世界一キライなあなたに』(注2)という映画を見ました。それも少し介護が入っている感じなんですけど。普段の生活の中でもやっぱり介護を意識しているんですね。
もともと介護が好きなので、無意識に集まってきちゃうんだと思います。趣味が仕事になったタイプなので。
普段、バッグの中には何を入れていますか?
リップとかグロスが多いです。これは、介護福祉士の現場とか介護福祉系の仕事をした後に、モデル系のパーティーに出ないといけないときとか、1日に3つぐらい違う仕事が入ったりとかするので、使い分けられるように入れています。
介護福祉士として働いている時はナチュラルで、モデルの時はちょっと派手めなリップの色になるということですね。
そうですね。1日の中でいくつもスケジュールをこなすので、その時その時に合わせたリップをつけています。
最後に皆さんにお伝えしたいことはありますか?
これからの時代、働く場所や会社を一つにしぼる必要はないと思うんです。私は介護福祉士としても、講演者としても、モデルとしても活動していて。いろんなところで仕事をしていて、いろんな職業を持っているんですけど、そんな働き方が今の時代に必要なのかなと思っています。
こういう風な働き方だと楽しいっていうことが多いんですけど、「でも上条さんはフルタイムじゃないから楽しんでいるんだ」みたいな意見もすごくあって。でも、1人の正社員よりも週1とか月1でも息抜き程度に介護に関わってくれる人が100人増えたらいいんじゃない?って思うんですよ。
働き方だけじゃなく生き方もすごく多様化しているから、そういうのも含めてヒントになったらいいなと思っています。
好きなことでしかスケジュールを埋めてないから、すごくノーストレスですよ。
まさに週末モデルのコンセプトとも合致していますね。
そうですね。笑
ありがとうございます。
1.『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』フジテレビ系「月9」枠にて2016年1月18日〜3月21日放送のテレビドラマ
2.『世界一キライなあなたに』2016年に製作・公開されたアメリカ・イギリス合作映画。障がい者の自殺幇助・安楽死を扱った問題作